農地転用許可事務の適正化及び簡素化について

3 農 振 第 3013 号
令和4年3月 31 日

各地方農政局長
内閣府沖縄総合事務局長        殿
都道府県知事
一般社団法人全国農業会議所会長

農林水産省農村振興局長

農地転用許可事務の適正化及び簡素化について


 農地転用許可事務については、これまでもその事務の適正な処理をお願いしてきたところですが、「規制改革実施計画」(令和3年6月 18 日閣議決定)においては、農地転用手続全般の運用のばらつきについて対応を検討し、地方公共団体の制度担当者へ通知することとされたところです。
 これを踏まえ、農林水産省においては、これまで農地転用許可事務実態調査、国と地方の協議の場等を通じ、農地転用許可制度について、地域ごとにどのような差異が見られるかという観点から調査を行ったところ、法令、審査基準等の根拠を明確にしていない、理解不足又は誤った解釈により制度が運用されている等の不適切な事例がみられたところであり、こうした事例が、農地転用許可制度への不公平感及び不信感を助長し、運用のばらつきとして認識されていることが考えられるところです。
 このため、都道府県知事等(農地法(昭和 27 年法律第 229 号)第4条第1項の都道府県知事等をいう。)及び農業委員会は、下記に御留意の上、関係法令及び関係通知に定めるところによるほか、自ら定める審査基準等に基づき農地転用許可制度を適切に運用されるよう、特段の御配慮をお願いします。
(なお、このことについて、市町村及び農業委員会の担当者まで行き渡るよう、貴管内市町村及び農業委員会に対して貴職から御通知願います。)


1 審査基準の取扱いについて
(1)適切な審査基準の策定について
 行政手続法(平成5年法律第 88 号)上、行政庁は申請により求められた許認可等の可否をその法令の定めに従って判断するために必要とされる審査基準を定めるに当たっては、許認可等の性質に照らしてできる限り具体的なものとしなければならないものとされている(同法第5条第2項)が、その内容はあくまでも法令の規定の解釈として許容される範囲内のものであることが必要であること。
 この点、農地転用許可基準は、農地法、農地法施行令(昭和 27 年政令第 445 号)及び農地法施行規則(昭和 27 年農林省令第 79 号。以下「規則」という。)で定められており、さらに、その具体的な運用に係る法令の解釈、手続等については、「農地法関係事務に係る処理基準について」(平成 12 年6月1日付け 12 構改B第 404 号農林水産事務次官依命通知)その他の関係通知により定められているところであるが、農地転用許可権限を有する地方公共団体において審査基準を定めるに当たっては、それらの規定に即した内容を定めるよう留意すること

(2)審査基準の公表について
 行政手続法第5条第3項の規定により、行政庁は、行政上特別の支障があるときを除き、審査基準を公にしておかなければならないこととされているが、令和2年度に都道府県及び指定市町村を対象に農地転用許可に係る審査基準の公表等の状況について調査をしたところ、当該審査基準を公表していない地方公共団体が見受けられた
 このため、農地転用許可権限を有する地方公共団体においては、当該審査基準を定め、これを農地転用許可に係る申請先である農業委員会等に備え付けるとともに、ホームページに公表することを徹底し、農地転用許可処分に係る公平性の確保と透明性の向上を図ること。


2 農地転用許可事務の運用のばらつきに係る個別の留意点について
(1)農地転用許可を要しない農業用施設の取扱いについて
① 農地の保全又は利用の増進のために必要な施設
 規則第 29 条第1号に規定する「耕作の事業を行う者がその農地をその者の耕作の事業に供する他の農地の保全若しくは利用の増進のため」に供する農業用施設については、当該農業用施設に供する面積が2アール以上であっても農地の転用の制限の例外に該当し、農地転用許可は、要しないこと。
 なお、当該農業用施設としては、ため池、排水路、階段工、土留工、防風林、防護柵等の災害を防止するために必要な施設及びかんがい排水施設、農道等の土地の農業上の効用を高めるために必要な施設がこれに該当すること。


② 農業用施設への進入路その他の関連施設
 規則第 29 条第1号に規定する「その農地(2アール未満のものに限る。)をその者の農作物の育成若しくは養畜の事業のため」に供する農業用施設については、当該農業用施設への進入路をコンクリートで舗装する場合等、農業用施設を利用する上で不可欠な施設等を整備する場合には、これを農業用施設と一体のものとして取り扱い、当該農業用施設に供する土地の面積と進入路等として当該農業用施設と一体的に整備する土地の面積とを合計した面積が2アール未満であるか否かにより判断することが適当であること。


③ 農業用施設を複数回設置する場合の取扱い
 ②の農業用施設を複数箇所又は複数回にわたって設置する場合の取扱いについては、同一の事業主体が一連の事業計画の下に転用しようとするときの農地の面積の合計が2アール未満であるか否かで許可の要否を判断することが適当と考えられること。
 よって、同一の事業主体が一連の事業計画の下で、農業用施設を複数箇所設置する場合には、その規模の合計が2アール以上となる場合には農地転用の許可を要することとなること。他方、一連の事業計画に従って事業が完了した後に、当該事業とは別に新たに2アール未満の規模の農業用施設を設置しようとする場合には、農地転用許可は要しないこととなること。
 このため、規則第 29 条第1号に基づく農地転用許可制度の取扱いの運用に当たっては、あらかじめ施設設置者の一連の事業計画の内容と耕作又は養畜の事業の内容を確認しておくことが適当であること。


(2)借地に農業用施設を建設する場合の取扱いについて
 賃借権を有する農業者が、当該賃借権に係る農地に農業用施設を設置しようとする場合については、賃貸借契約を一旦解約し、改めて農業用施設用地に転用するための権利設定を行う方法のほか、賃貸人である農地の所有者の同意が得られる場合には、賃貸借契約を解約することなく、既に設定されている賃借権に基づいて農業用施設を設置することも可能であること。
 このため、農業者年金の支給に影響がある場合等を除き、画一的に賃貸借契約の解約手続をとらせるような指導は適当ではないこと。


(3)農地取得後3年以内は転用を認めない運用について

 耕作目的で取得した農地については、一定期間は適正かつ効率的に耕作されるべきとの観点から、農地を取得した後3年間は、その取得した農地についての転用は認めない指導が慣行的に行われている地域が見受けられるところ、このような農地転用許可基準との関係が明白でなく、従来からの地域の慣行的な取扱いにより農地の転用を認めないといった対応は適切ではないこと。


(4)農用地利用計画の変更を伴う農地転用について
 農用地区域(農業振興地域の整備に関する法律(昭和 44 年法律第 58 号)第8条第2項第1号に規定する農用地区域をいう。以下同じ。)内の農地のうち農用地区域からの除外又は用途の変更のための農用地利用計画(農業振興地域の整備に関する法律第8条第4項に規定する農用地利用計画をいう。以下同じ。)の変更手続を伴う転用事案については、農地転用許可を行う前に当該手続を行う必要があること。
 この場合において、手続の迅速化の観点から農用地利用計画の変更手続と農地転用許可手続を並行的に処理するようなケースがあるが、農業振興地域整備計画の変更公告以前に農地転用許可が行われている事案が見受けられたことから、このようなことのないよう、関係部局で十分に調整の上で処理を行うこと。


(5)一筆の農地の一部を転用する場合の取扱いについて
 一筆の農地の一部を転用する場合において、農地についての権利移転の有無に関係なく、あらかじめ分筆を行った上で申請することを画一的に求めている事例も見受けられるが、農地転用許可に関しては、農地転用許可を受けようとする土地の箇所を特定できるのであれば、あらかじめ分筆を行わなくても当該許可をすることは可能であること。
 なお、あらかじめ分筆を行うこととする運用については、農地転用許可後において地目変更登記又は所有権移転登記を行う場合における不動産登記法(平成 16年法律第 123 号)による登記手続と農地転用許可手続の相互の運用の円滑化を図るためのものであることから、その点を申請者に説明の上で対応することが適当であること。


3 農地転用許可申請書等の添付書類の簡素化について
(1)その他参考となるべき書類の取扱いについて
 農地転用許可申請書又は農地転用届出書に添付する必要のある書類については、規則及び「農地法関係事務処理要領の制定について」(平成 21 年 12 月 11 日付け21 経営第 4068 号・21 農振第 1599 号農林水産省経営局長・農村振興局長通知)に定められており、それ以外の書類については、特に審査をする必要がある場合を除き提出を求めることのないよう依頼してきたところであるが、地域によっては、農地転用許可申請書又は農地転用届出書に添付義務のない隣接者の同意書や自治会長の同意書等の添付を一律に求めている事例が見受けられた。また、申請書又は届出書の提出に当たって自治会長又は農業委員に稟議の経由印を求め、農業委員会事務局で申請を受け付けるといった運用が行われている場合もあった。
 こうした取扱いは、申請者又は届出者に過度の負担を求めることとなるものであることから、従来から書類の添付を求めているからといった合理性を欠いた理由で書類の提出を求めることはしないこと。

 また、「その他参考となるべき書類」の添付を求める場合は、申請書の審査に真に必要なものに厳選するとともに、これらの審査に必要なものであっても、関係部局等への確認を行うことにより把握可能な情報については、可能な限り申請者に添付を求めないようにすることが望ましいこと。
 なお、添付書類又は押印欄について、不要なものは廃止する等、行政手続のオンライン化等を見据え、農地転用に係る許可申請又は届出の手続について、積極的な見直しを行うよう努めること。


(2)法定添付書類の見直しについて
 添付書類の簡素化及び審査の簡略化の観点から、令和4年3月 31 日付けで規則を一部改正し、規則第 30 条第1号において申請者が法人である場合に添付を要することとしていた法人の登記事項証明書及び定款又は寄附行為の写しについては、それらのうちのいずれかの書類のみの添付を求めることとし、農地法第5条第1項の許可手続においてそれらの書類を添付する必要のある法人は、農地等について権利を取得しようとする者のみとしたこと(規則第 57 条の4第2項第1号)。
 また、併せて、審査に際して重要性の低い記載事項の見直しも行ったところであるが、これらの見直しは、今後の手続のオンライン化等も見据え、添付又は記載を一律に求める必要性が低下したものを精査した結果であり、審査に際して特に必要と判断される場合には、「その他参考となる書類」等として添付等を求めることを否定するものではないが、従来どおり一律に添付等を求めることは適当ではないこと。
 なお、農地法第5条第1項第7号の市街化区域内の農地転用届出書に添付を要していた都市計画法(昭和 43 年法律第 100 号)第 29 条第1項の許可を受けることを必要とする場合に当該許可を受けたことを証する書面については、農地法第4条第1項第8号の取扱いを踏まえ、規則第 50 条第2項第3号を見直し、添付を要しないこととしたこと。